愛犬がある日突然、眼をしょぼしょぼさせていて心配になったという経験がある飼い主さんは、少なくはないと思います。今回は犬の眼の病気で多くみられる角膜潰瘍についてお話します。

角膜潰瘍とは
角膜とは眼球の外壁の前部にある血管の走行していない透明な膜のことです。犬の角膜は厚さ0.5~1㎜程度で、外側から角膜上皮、基底膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮で構成されています。
その角膜に何らかの原因で組織に傷がついてしまうことを角膜潰瘍と呼び、この傷から細菌が入ると炎症を起こしてしまいます。
潰瘍が悪化すると角膜に穴が開く角膜穿孔(せんこう)が起こり、最悪の場合は失明することもあります。
角膜潰瘍の種類
目の疾患の中でも多くみられる角膜潰瘍ですが、一概に潰瘍と言っても様々な種類があります。
表層性潰瘍
一番外側の角膜上皮だけの潰瘍。
中層〜深層性潰瘍
角膜実質までの潰瘍。何らかの基礎疾患や合併症が疑われます。
デスメ膜瘤
デメス膜まで到達した潰瘍。緊急疾患であり、出来るだけ早急な外科処置が必要です。
角膜穿孔
角膜に穴があいてしまった状態。緊急疾患であり、出来るだけ早急な外科処置が必要です。
融解性角膜潰瘍
細菌感染などが原因で、角膜のコラーゲンを溶かす酵素が働き、角膜実質を溶かしてしまう潰瘍。通常の治療に加えて、抗コラゲナーゼ作用を持つ薬の点眼が必要です。
難治性角膜潰瘍
治ろうとする角膜上皮が接着せず、すぐ剥がれてしまい、原因は不明です。難治性再発性角膜びらん、ボクサー潰瘍、無痛性角膜潰瘍など別名があります。
角膜潰瘍が発生しやすい犬種
犬全般に発症する可能性がありますが、特に目が大きく鼻が短い犬種は要注意です。難治性角膜潰瘍はトイプードル、ボクサー、ブルドッグ、ラブラドール・レトリバーなどで後発します。

角膜潰瘍の症状
角膜潰瘍は比較的、飼い主さんが気付きやすい症状が出ます。角膜は知覚神経が集中している為、潰瘍があると強い痛みを感じます。その為、眼を気にするあまり床に目をこする、頻繁にかくなどをして、症状を悪化させることがあるので注意が必要です。
- 眼をしょぼしょぼさせる
- 眼を気にして触ろうとする
- めやに、涙の量が増える
- 白眼が赤い
- 眼全体の表面が白っぽく見える
見た目には傷など病変を確認できない時でも、このような症状が当てはまる場合、染色検査(フルオレセインという青色の光を当てると傷の箇所が蛍光に発色する色素を点眼する)を行うと細かな傷が発見される事がありますので、少しでも異変を感じた場合は早めに動物病院で検査をしましょう。

角膜潰瘍の原因
眼は異物混入や生活環境によって外傷を受けやすいのは人も犬も同じです。特に角膜潰瘍の原因はこれという特定がなかなか難しい病気で原因も様々あげられます。
異物混入
逆さまつげ、眼にゴミが入る
外傷
自分の爪で引っ掻く、犬同士のケンカ、散歩中に枝や壁に眼をぶつけた
眼の乾燥
何らかの原因により、涙液が少なく眼が乾燥気味の場合
シャンプー
シャンプーの液やドライヤーの刺激
角膜潰瘍の治療
動物病院での検査の結果、角膜潰瘍と診断された場合、進行具合によって治療が異なります。
一般的な角膜潰瘍の場合
浅い箇所だけの角膜潰瘍の場合は1週間程度で良好に向かっていきます。治療法としては抗生剤や角膜保護成分の入った点眼薬を一日に数回投与します。また、エリザベスカラーを装着することが症状の悪化を防ぎます。
重症の角膜潰瘍の場合
傷が深い場合、抗生剤や角膜保護成分の入った点眼薬を頻回(毎時ごとに点眼など)投与することが必要となります。飼い主さんの負担は増えますが、角膜潰瘍の治療は点眼が非常に有効です。飼い主さんの点眼が難しい場合は、症状が落ち着くまで入院させる場合もあります。
また眼に穴が開く角膜穿孔まで悪化してしまった場合、眼球全体に炎症や化膿が進み、全身に感染が広がることを予防するため、眼球摘出の処置が必要となる可能性もあります。
難治性角膜潰瘍の場合
最初は軽傷の角膜潰瘍と診断され、1ヵ月以上点眼治療をしても治る兆候がなく、眼科専門を受診すると難治性角膜潰瘍だったというケースは珍しくありません。点眼だけでは完治が難しい為、以下のような外科的治療が必要となります。
①角膜デブリード
点眼麻酔をした状態で、接着しない角膜上皮を除去する
②角膜格子状切開
点眼麻酔をした状態で、眼の表面に針の先で無数の細かい傷を作る
③コンタクトレンズ、眼瞼縫合
眼を保護し、角膜の再生を促します
外科的治療の後、抗生物質などの点眼を日に数回、1ヶ月程度続けることによって治癒します。これらのように、角膜潰瘍は軽症か重傷か難治性のものかにより治療の仕方が変わっていきます。どの過程でも必須となるのがエリザベスカラーと点眼の治療となります。
怖がらせない目薬の差し方とは
角膜潰瘍に限らず、目の病気やケガの治療に目薬の点眼は必須です。
病気を発症して初めて目薬を差すことが多いと思いますが、ほとんどの場合、最初の目薬は嫌がってしまうでしょう。嫌がる愛犬を押さえつけて、無理やり点眼すると「目薬=怖い、嫌なもの」と印象がついてしまい、目薬を見ただけで逃げ出してしまうようになることも…。
何がなんでも目薬を差そうと押さえつけると警戒心が強くなり、上手な点眼とは程遠くなってしまいます。最悪の場合、抵抗するあまり噛む行為に出ることもあります。噛むことで目薬を回避することを覚えてしまうと、点眼はかなり難しくなってしまいますので、飼い主さんは必死なあまり無理強いだけはしないようにしましょう。目薬が怖くない物と覚えれば、正面からの点眼も難しくはありません。
目薬のコツ①
目薬が見えないよう、犬の後ろに回ります。小型犬の場合は膝に乗せて前を向かせましょう。
目薬のコツ②
片手でマズルを掴み、顔を少し持ち上げ、顔が動かないよう固定します。マズルを掴まれることを嫌がる犬もいますが、警戒させてしまうので力ずくで固定しないようにしましょう。
目薬のコツ③
犬の視界に目薬が見えないよう、後ろから瞼をしっかり開いて、点眼します。
目薬のコツ④
目薬の点眼に成功したら、たくさん褒めてあげましょう。おやつを上げるのも有効です。目薬は怖いから「目薬の点眼=いいことが待っている」と印象を変換出来るようになれば、失敗することはありません。
目薬に対して、一度恐怖心を持ってしまうと、警戒し断固拒絶します。マズルを触れられることが苦手な場合、そこから克服するように慣れさせましょう。
角膜潰瘍の予防法
一度、角膜潰瘍になると繰り返す場合があります。眼が乾燥しやすい場合は、保湿成分を配合された目薬を日常的に差すようにしましょう。逆さまつげの可能性がある場合は、定期的に抜くことで角膜に傷がつくことが予防できます。また、免疫力が低下している時も角膜潰瘍を発症しやすくなります。
犬の眼の傷はいつどこで起こるか分からないことが多い為、異常を感じたら様子見するのではなく、早急に動物病院を受診することが一番の予防になります。見逃さないように注意しましょう。
まとめ
眼は非常に神経が集中している器官です。目にゴミや睫毛が入ると眼を開けないほどの激痛が襲うのは犬も人も同じです。言葉が発せない犬の異変は飼い主さんが気付く以外ありません。眼の疾患は急激に悪化する場合もありますので、とりあえず様子見ではなく、いち早く病院へ行きましょう。治療期間を短くする為にも早期発見が重要になります。

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